Thoughts at 3AM.

記憶の補完

親友の誕生日にむけて



君と親しく遊ぶようになってからまだ数年しか経ってない事実を認めようとすると目眩がしそうになる。時は僕たちの間を全速力で駆け抜けていっているらしい、中学校のテニスコートや保育園の積み木の家の中、もっとずっと昔から君の匂いがそばに漂っていた気がするのは今日まで共に過ごした時間があまりに濃密であるからに違いない。思い返せばむせ返るような甘い匂いのする高校時代のほとんどを僕らは共に過ごし青春と名の付くものを笑い、壊し、羨んだりした。夕暮れに君を教室の前で待つようになってから僕の青春はいっそう意味のあるものになった。


二年の文化祭ではクラスの出し物の準備で手持ち無沙汰になった僕たちで勝手に有料のおみくじを作って校内を練り歩いて後日問題になり先生にこっぴどく叱られ、クラスに迷惑をかけ、先輩にカチこまれた大事件があった。過ぎたことは仕方ないと口では言っていた君が誰よりも責任を感じて反省していたのを僕は知っている。たむろしていた便所の湿り気がいつもより痛烈に感じられた。


高校生をあまり謳歌できていなかったのかな、と卑屈になりそうなときは君と帰った帰り道を思い出す。そこで過ぎた時間は僕にとって一生の財産になった。君が僕に話すことは全てが瑞々しく、衝撃的で、真夏の西日の良く似た強烈な光線だった。そんなことをしているうちに良くも悪くも君の生き方にひどく影響されてしまったことをここに認めよう。


そして僕らには大学受験があった。
忘れもしない高校三年の春に僕らは同じ大学を目指すことを誓い合った。もとより君の方がずっと勉強が出来たので僕は密かに君を仮想敵に据えて、先を走るその背中に追いつけるように参考書や勉強の仕方、真似を出来るものは全て真似をした。

そうして春が過ぎ、みずみずしい夏が来て、夕暮れ色に山の端まですっかり色づいたかと思うと、すぐにその葉は雪に覆い隠された。

しかし、君の背中はまだ遠くにあった。一生懸命勉強しても追いつけないこの距離を地頭の差だと便利な言葉で片付けて嫉妬した、そうして僕は自分の努力を疑わなかった。今思えばだいぶ無理をしていたが途中で志望を変えるのはくやしい、絶対合格してやろうと常々言っていた僕は自分で作り上げた理想と目標に潰されかかっていた、なにより君に負けたくなくて愚直に問題を解きつづけた。

そしてその日が来た、合格発表を代わりに見に行ってくれた君の口から「俺は受かってたけどお前は落ちてたよ、ドンマイ」の言葉が出たとき僕は失意よりも先に砂時計の砂が全部落ち切ったときのような安心感が湧き上がるのを感じた。もしあのまま同じ大学に入っていたら君に嫉妬し続けて、嫌いになってしまったかもしれない。僕はこれから先もその不合格にひたすら感謝し続けるだろう。


きっと僕らは、ずっと同じ景色を見てきた、似た希望と絶望を抱えて今日まであるいてきた。そんな気がするのだ。普段はお調子者の顔をしている君にも、僕のもとに訪れる死んじまいたくなるようなような夜が何度も訪れているだろう。そんな君だからこそに僕は安心して背中を任せることが出来る。



本を読んで、旅をして、死のう

君の周りに漂う危ない匂いは成人をしたぐらいじゃ消えることなどなんかないと思う。
これからも一緒に無茶をしよう。


これからもよろしく。