月四
月曜四限のAcademic Essay Writingの冒頭は教授が What's new people?と言いながら自由と肥満の国アメリカを体現したような巨体を揺らして教室に入ってくるのがこの授業のおきまりの始まり方。指名された生徒は前に出て他の生徒に向かってそれぞれの身に起こったエピソードを即興で発表する。
これがなかなかむずかしいのだ。
いくら大学生は時間があって自由だからといえども毎週新しいことが起こり続けているわけもなくネタはつねにカツカツの状態だ。
ハッタリをつかおうとしても、日本語と違って英語だとボロが出やすい。不整合性に気づいた教授に突っ込みを入れられたとしたら大勢の目の前で醜態をさらすことになる。
そんなことがあったら僕はきっと耳まで赤くなってしまうだろう。
なので学生の多くは下を向きもじもじして教授が誰かを指名するのを待つ。
僕の大好きな授業は学生と教授の極端な温度差からスタートする。
あるとき僕が指名された。彼と目が合ってしまったのだ。
僕は体中から火が出そうになりながら必死に脳内のアルバムをめくり、当時一番腹が立っていたバイト先の上司による自分への理不尽な当たり方を憂さ晴らしに語った。なにを喋っていたかうまく思い出せないが。きっと耳まで真っ赤だっただろう。
たどたどしいスピーチながらも教授はとっても喜んでくれた、他の生徒に伝わったかはわからなかったけれど言いようのない達成感に包まれた。
それからというもの僕はその百貫デブ教授のことが大好きになって席も後ろの方から最前列の真ん中に移動した。こういうことに関して僕の脳内はひどく単純だ。
次からは指名される前に手を挙げるようになった。
他の子の発表も以前よりもスっと耳に入ってきている。
いままで失敗しそうなことに対しては直前で二の足を踏んで自己保身に走りがちだった自分が少しずつ変わっていった。
あるとき下を向く生徒に彼はこう語った。
何もない一週間などどこにもない、自分が伝えようとしていないだけだと。
彼は発表者の英語力を確かめたいのではなく、なにかを必死にゼロに近い状態からひねり出そうとする僕たちの姿を見ていたのだと気づいた時には残りの授業は最後のテストを残した一回となってしまった。
この授業は春のセメスターで終了するので他学部に籍を置く彼とは少し離れてしまうことになる。いつか学内でまた会った時にはきっと今より上達した英語で彼に聞いてみたいと思う
何か新しいことはあったかい?と。