あいさつ
どうも。
冗長な春休みを利用して高校と小学校の同級生たちとハワイに行ってきた。
ハワイのおじいちゃんちに行ったのは5年前が最後で、その頃の僕は中学三年のクソガキであったから親の監視下を逃れられずハワイの魅力を余すところなく経験することは事実上不可能であった。だが今は成人だ。コロナ片手にサングラス越しの水着美女を眺めることもできる。よだれを拭きながら一行は成田を後にした。
あのとき食べたふわふわのシェイブアイスを売ってる屋台はまだ同じ場所にあるだろうかとか、砂がサンダルの中に入るだけでギャン泣きしてとうとう入れなかった海は変わっていないかなと、幼き頃のハワイの光景が瞼の裏に映し出されなかなか眠りにつくことができなかった。
ひとしきり心を躍らせ、ジェットラグに備えてひと眠りしようとシートを倒して読書灯を消そうとした瞬間、布を引き裂いたようなフライトアテンダントの悲鳴が前方から上がった。身体が一瞬硬直し、ざわっと背中の毛が立つ感触がした。通路には血を流して倒れている人も多く、これが映画の撮影でないことはもはや誰の目にも明らかだった。男は血塗れのナイフを振り回し目をぎらぎらさせながら機長室に向かってこう叫んだ。
黒ずくめで両目だけを露出させた男から発せられる「
草津」の響きからは硫黄の香りは微塵も感ぜられなかったが、機内暴力の主は確かに、そう繰り返した…
とここまでホラを吹いてみたのだが、ハイジャックとか書いてたらなんだか自分も怖くなってきたのでやめることにする。ハワイに行ったこともウソだし、おじいちゃんも日本在住。小さい頃、砂浜の砂が足についてギャン泣きしていたことは本当だ。
舞台はハワイから遠く離れた埼玉県
川越市で始まる。通勤ラッシュも収まらぬ朝八時にさっそうと改札に集まった僕たちは西口の
トヨタレンタカーに向かった。
高見盛によく似た美人店員から
エコカーを借りてさわやかに走り出す。
ちなみに今回借りたAquaはEV車だ。EVが何の略だかわからないがきっとAV(アダルトビデオ)と大差ないと本能的に感じたのでAVに強い僕が運転することにした。姿形は
プリウスを無理やり小さくしたみたいでなかなか可愛いが、アクセルもブレーキも効きづらく「にゃーん(笑)」って感じだ。拝借して即廃車、語呂はいいけど最悪である。
草津に行くって言ってたのに意味不明な薄着で来た岡野のせいで一旦彼の自宅に寄ることに。停車中「ここんちの男の子は女の子みたいに綺麗な顔をしてるね〜」と話しかけてきた近所のおばあさんに「実はコイツおちんちんついてないんですよ」とウソをつく。聞いた途端に生ゴミ片手に会話からフェードアウトしていった老婆は実に神妙な顔をしていた。老人との会話で心温まるひと時を過ごした僕たちは埼玉を後にした。
毎度お馴染み無料に目がない岡野
草津までは130キロ少々。マッハ20でいけば0.2秒で着く大したことない距離だ。正登にも少し運転を変代わってもらったが椅子がふかふかして腰が痛い?との理由で早々と運転席から立ち去っていった。
SAのコーラはうまい
到着(二、三度事故りそうになったのはヒミツだ)
素泊まり4000円でこたつと24時間いつでもはいれる温泉を完備した今回のお宿「田島屋」さんは
草津の相場クラッシャーとして名高い。ちなみに畳はところどころ痛んでふわふわしている、頭がゆるふわな女子大生にもおすすめだ。
こたつに入り腰を落ち着けると目の前に何やらラブリーな物体が。
草津名物
温泉まんじゅうだ。すこしは腹の足しになるかなと一口かじると餡のなかに隠されたくるみのソリッドな一撃に襲われる。噛みしめた歯の隙間から溢れ出たくるみの風味が口内を不法占拠。これではくるみの抗酸化作用と
ポリフェノールに
草津にはびこる老人たちも一瞬で若返ってしまうに違いないと恐怖すら感じつつ完食。
こたつとまんじゅうで早くも僕たちの幸福度は限界値に達した。しかしフロントに有った日本人形が怖かったので減点3。
こよりで一服
湯畑にいる大学生カップルを白目で威嚇しつつ昼食を探す。ここで
草津にはたいした食い物がないことに気づきがっくりとうなだれる。昼飯は釜飯だった。可もなく不可もなく。
観光地名物の顔ハメもやった。虚しさが漂う。
足湯じゃないんかいっ!
腹を膨らませ、湯畑付近の大滝の湯へ。
銭湯の中はおちんちん丸出しの男の人ばかりでビビった。
温泉のお湯が地熱で沸くところまでは理解できるのだけど、お湯につかるとリウマチに効果があったり、つるつるお肌になったりするしくみがどうも理解できない。きっと神様が頑張ったニンゲンたちにくれたご褒美なのだろうと納得しながら特に頑張っていない大学生4人組が恩恵にあやかる。
ユーモアレスノイズこと武井
ひとっ風呂浴びた後は飲むヨーグルトでチルアウト。上気した肌を夜風にさらし夕飯を探してとぼとぼ歩く。湯畑周りの飯屋が軒並みショボくて萎えているところに燦然と輝くカツ丼屋の看板を見つけ、なだれ込むようにして店内に入る。
着席と同時にラストオーダーを知らせてくるパワー型の店員。草津の手荒い洗礼に完全に出ばなを挫かれたが気合いを振り絞って注文を済ませ、なんとか夕飯にありつけることに。
武井の食べ方を真似るチンパンジーのパン君。
雪道で一通りはしゃいだ後、旅館に戻りこたつを囲んで酒盛り。
武井が口角泡を飛ばしすごい勢いで喋るのだが全く内容が入ってこない。これも彼の才能なのだろうとグラスを傾けつつ優しく見守ることにした。風呂上がりの岡野はメガネをかけるのだが、いちいちかっこよくてムカつく。ドブに落ちろ。
疲れていたせいもあってか布団を敷いてから程なくして眠ってしまったようだ。布団を跳ねあげると正登がいない。そういえば昨晩飲みながら朝走りに行きたいとか言ってたなあとぼんやり思い出す。ひとり階下を捜索すると、長い廊下の曲がり角に男湯の文字があった。「朝風呂から始まるロハスな朝」どことなくライフハックブログみたいな響きがするが構わず入湯。
マラソン帰りの正登と信楽焼きのタヌキと謎のコラボレーション。
ちなみに源泉かけ流しなのでハチャメチャに熱い。シャワーですこし埋めることをお勧めする。熱いお湯が好きな僕は大満足で風呂を上がったが、ふとした瞬間に武井の胸毛に気づいてしまい減点7。
受付でチェックアウトを済ませると、宿泊客には手前の土産物屋で割引があるということなので素直に従うことにする。薄眼で見たけれど相変わらず日本人形は怖かった。
コンビニにお金をおろしに行った帰りに寒い中待ってくれている仲間のために温かい飲み物を買って戻ると、奴らは完全にくつろいでいた。
鉄瓶を囲む見事なおばショット。
お土産を買った客に振舞われる秘伝のクマザサ茶。さっき買ったばかりのミルクティーは完全に価値を失くしていたが投げつけるようにして配った。
渋すぎる鉄瓶!
お土産用にいくつかまんじゅうの箱詰めを購入。15個入りが932円。ご丁寧に932円の横には932(くさつ)とルビが振ってあったが、隣の店で15個入りが1200円で売っているのを目にした後だったのでその限界突破の企業努力に涙しそうになる。しかも購入特典にいっこ温泉まんじゅうがオマケされるのでこのままじゃ潰れてしまうんではないかと逆に心配になった。
田島屋の前での一枚。
朝飯を食べたあと武井の提案で神社巡りをする羽目に。
やらされている感が拭えない…
なぜか神社で正登、武井のふたりとはぐれたので先に車に帰ることにした。
途中雪かきに苦戦しているおばあさんがいたので暇だから手伝ってみた。
ある程度雪をおろして道路で融雪させながら世間話をしていると少し寄っていきなさいと言われたのでついていくと「フジヤベーカリー」の看板がかかった商店に到着。
おばあさんはここの商店の店主だった。
ちょうど昼飯用にパンを買いこもうとするとおばあさんが「そこらにお掛けなさい、お代は結構よ」といってたくさんのパンとお茶を差し出してくれた。
やどかりみたいなパンが一番おいしかった。
一仕事を終え満足顔の岡野
お茶をすすりながら去年の豪雪の話を聞く。おばあさんが草津のお湯の魅力を語る横顔は苦労して雪下ろしをしているときよりずっと若やいで見えた。別れ際の「また草津に寄ったときは寄ってね」の言葉を噛みしめてフジヤベーカリーを出た。長生きしてくれ。
雪まみれの駐車場ではしゃぐ
帰り道の途中で寄ったコンビニでこのまま無事に帰れると慢心している武井をお使いに行かせたまましばし置き去りにする。
5分以内に着信があったら俺の勝ちな、とか話しているときに後部座席から武井のスマホが発見されたので目の色を変えて迎えに行くことに。武井はコンビニを出たらしく見当たらなかったので立ち読みをしていると肩をすぼめて向かいのダイソーから出てくる人影が。勿論武井少年である。
僕と岡野は尻を蹴られました。何故岡野が蹴られたのかは永遠の謎である。
途中のSAで四人そろってトイレ休憩。クマザサ茶の利尿作用を完全に舐めていた。 特に事故もなく川越までたどり着き給油をするとなんと1780円だった。あとで確認するとリッター38キロの好成績で走っていたらしい。200キロ弱走ってこの燃費はまさに怪物と言わざるを得えない。EVのEはエレクトリックなのだろう、きっとエレクトリックバイオレンスなのだろう。
小腹が空いたのでガストで旅の総括を兼ねて軽食を取ることに。軽食といいつつセットメニューを頼む正登、
はらぺこあおむしか貴様は。ガストでも今回の旅は大満足ということで意見が一致した。特に宿がよかった。怪しく光る日本人形。完全不干渉の女将さん。経営が成り立つのか不安になる
温泉まんじゅう。どれをとっても太鼓判を押せる。
帰りの電車でよく笑うおばあさんを見かけた。
その姿にちいさなパン屋のおばあさんの姿を重ね再訪を厚く誓ったのでありました。
おしまい