Thoughts at 3AM.

記憶の補完

悲しみの中ジョッキ、追加で[日曜定点観測20150104~11]

 

 

成人式。

それは誰もが主役になれる人生の最初の節目なのかもしれない。


女の子は晴れ着に身を包み、いつもよりちょっと濃いお化粧とヘアメイクを。

男の子は背広や袴を着て、前日に散々悩んだネクタイをきゅっと締めて。

 

朝から家族と何枚写真を撮ったかわからない。

誰と誰で撮ってないからもう一回、ピンボケだからもう一枚と、撮影者がころころ変わって、終いには猫カフェの猫もこんな気分なのかなと考えていた。

 

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バタバタしてるうちにいつものメンバーが迎えに来た。いつも車のことしか考えて無い自衛隊の友人がぴかぴかの徽章のついた制服を着ていた。


「制服効果で今日はだれかお持ち帰りしちゃおうかな」と調子に乗るコイツが警察にお持ち帰りされないことを祈りながら会場の近くにあるコンビニへと向かう。

 

コンビニには顔なじみの野球部が集まっていた。中学時代ならば100%の坊主率を誇っていた彼らから汗臭い球児の風格はとうに消え失せていた。


顎髭を生やし、どこかで覚えたタバコに火をつけて渋い顔で話しているが、内容は相変わらず車と女の子のこと。

相変わらずみんな下ネタで爆笑する姿を見る限り、ユニフォームがスーツに変わっただけで脳みその量はちっとも変ってなさそうで安心した。


ひとりが口臭ケア商品を買うと続くようにまたひとりと会計に向かう、起こるはずのないできごとに期待する少年のような面持ちで。

 

受付開始時刻をすこし過ぎたあたりでコンビニを出て各々自慢のマフラー音を響かせながら会場に向かう。左折待ちでいつもより多めにアクセルをふかす、密かに想いを寄せたあの子が気づいてくれるはずもないのに。

 

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砂利の駐車場に車を停める、続々と車から出て会場へと歩く晴れ着姿の女子の横顔があまりにも記憶とかけ離れていてちょっと焦る。


派手なオープンカーに旭日旗、揃いの赤と金の袴に身を包んだ奴らが会場を盛り上げてくれていた、2km先からでも見つけられそうな彼らの威勢の良さに成人式はやっぱりこうでなくちゃなと胸がうずいた。

 

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会場までの100mの道で何回の久しぶりを聞いたかわからない。一歩進むたびに懐かしさの波にのまれて受付をすますのも一苦労だった。

客席を見回しても知らない顔がたくさんいるように見える、目を凝らせば面影のあるのもいるが、誰なのかまったく見当もつかない人も多い。

式典の最中に、こっくりこっくりと舟をこぐ髪飾りの数々、早い子は朝3時起きで髪を結って着物を着つけているらしい、ふと気のゆるんだ瞬間に襲う睡魔の威力はどれほどのものなのか、10分ですべての用意を済ませた僕にはうかがい知ることができなかった。

 

成人代表のことばを軽く流して外に出た。本格的な再会のはじまりだ。


中学卒業以来会っていなかった旧友との再会、楽しくないはずがなかった。男子の多くは卒業アルバムとろくに変わっていなかったけれど、女の子はすっかり女性への変化を遂げていて名前を言われなければわからないことが一度ならずあった。


写真を撮ったり撮られたり、データフォルダが幸せ太りで膨らんでいく。

 

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担任から「君はいまなにをやっているの?」と会場で二回、打ち上げで一回聞かれた、五年の月日で失われた彼女の記憶力に思いを馳せる。

 

クラス写真を撮ってしばらくすると祝賀会が始まった。小さなホールに並ぶお上品な軽食のテーブルは200幾名の食欲を満たすにはあまりに貧弱すぎた。

始まったビンゴ大会の一等がディズニーペアチケットだと知って息巻いて参加するが、ビンゴ!と喜ぶ声が上がるにつれて穴の開かないシートに目を落とすのも飽きてきた。隣の自衛官は「発表した数字の前後もあけていいんだよね?」と完全に正常な判断能力を欠いていた。


ギャンブルは人を狂わせる、「ここまできたらやめられねえよ」が口癖のパチンカスの友人の顔がまぶたの裏に浮かんでは消えた。

 

最期の出し物はスライドショーだった。自分の登場数こそ少なかったものの、とても楽しく見ることができた。もう一度ジャージに袖を通したくなった。


実行委員のおかげで祝賀会を満喫した後は写真撮影もほどほどにおばあちゃんちに向かった、襟付きなんか着ないじいちゃんも首を長くして待っていたそうだ。

 

 

 

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愛想笑いがへたくそなのは母譲りだ。

 

 

昼食をとってすぐに地元へとんぼ返り。飲み会開始の時刻は刻一刻と近づいていた。四人のクラスメートを回収し駅前で飲み会開始、幹事の名のもとにノンアルコールで頑張った。

あらかじめ32人で人数確認をしていたのに35人着席していたのは笑った。他のクラスや中学校が同席していたせいもあって人が入り乱れていたが、いいかんじに各々盛り上がっていてホッとした。


元より仲のいい奴らで二次会をやる計画があったので、クラスの二次会は特に触れず、一次会を閉めたあと車で自宅に回収するメンバーを探すべく他クラスの打ち上げに向かった。

 

 

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ここで問題のデブが現れる、名は松井。

むかしから負けず嫌いなデブであった。

 

誰よりも調子に乗って酒を飲み、誰よりも先につぶれる、ありがちなはしゃぎ方を披露してくれていたせいでこの写真を撮ってすぐに「全自動もんじゃ焼き排出機」に姿を変えた。

 

我は激怒した、必ず、このはた迷惑なデブを除かなくてはいけないと決意した。我には介抱がわからぬ。我はいつも潰れる側である。日本酒を飲み、いつも手荷物を失くして過ごしてきた。けれども嘔吐に関しては、人一倍敏感であった。

 

そもそもコイツとはクラスが違うのでそのへんに転がしておくことも考えていたが、二次会参加メンバーなのでどうしても連れて帰る必要があった。

なによりコイツが吐いて3-1じゅうにもらいゲロの嵐が起こる最悪のシナリオを回避しなければいけなかった。

 

吐きながら「つらいことがたくさんあるんだよぉ」ともらしていたのを聞く限り、吐き出したのは余計なアルコールだけではなさそうだった。毎日顔を合わせていたコイツが八王子に引っ越してから疎遠になっていたことを思い出し、新たな飲み会の設置の必要性を痛切に感じた。

 

20:30開始予定だったぼくらの二次会参加者の大半とは連絡がつかなくなっていた、すでに誰がどこにいるかすら分からなかった。松井がひと段落したのが後か先か、3-1の一次会は終わりを告げた。

代金を立て替え、ヤツに代わって手荷物を探し終えたころで松井は急激な回復を見せ、結局のところ松井はクラスの二次会へ向かった。


3-1の幹事が松井に言っていた「お前ここで二次会こなきゃ一生後悔するよ」の声がやまびこのように脳内にこだました。

 

 

「コイツ捨てて二次会やればよかった」

 

 

僕らが正解にたどり着くのはいつもいつも遅すぎる。


激エモい二次会の席でも、狂ったようにもんじゃ焼きを吐き出すデブの背中をさする僕にも時間は等しく流れていた

正直死にたさしかなかった。


「実は中二の時アイツが好きだったんだよね」とか「お前アイツと付き合ってたのかよ!」とかやりたかった。

甘酸っぱい会話したかった。

 

 松井が去った今、道連れにした三人の二次会参加メンバーだけが残った。

今夜飲まなかった分を取り戻そうと決意して満身創痍の体を引きずり駐車場に向かい、他の三人を押し込むように車に乗せた。途中一人が飲みすぎで具合が悪くなり、二次会は自宅で三人で行うことになった。今思えばヤケクソでしかなかった、本当に申し訳ない。

 

 自宅でこの日のためにとっておいたの頂き物の日本酒を開けた。一杯か二杯飲んだところで記憶が途切れている、家に帰ってきてから何を話したかも覚えてない。五時ごろにひとり、昼過ぎにふたり帰って、完全にひとりになった。


二次会すっぽかしメンバーがツイッターを更新していた。「カラオケで朝まで…」字面だけで頭がクラクラした。

楽しそうな二次会の写真も見た、ぼくの心はすっかり壊れてしまった。

 

年明け前から計画していた幻の二次会は散々な結果に終わり、行方不明のメンバーから謝罪メールが届きだした。ひび割れた心にはどんな美辞麗句も響かなかった。


 もはや流す涙もない。成人式の残骸を拾い集めるように写真を眺めても誰かの携帯で撮ったものが多く、手元にはわずかしか残っていなかった。

  

それとひとつ僕からも懺悔しなければいけないことがある。

いろんな人に褒められた僕のスーツのことだ。

 

実はアレ、おしゃれな友人から借りたもので自前ではないのだ。

 

男から聞かれれば「これ借り物なんだよ(笑)」と言えたが、女の子から聞かれると「借り物です」とは言えず「お、おう、ありがとよ」みたいな最低な反応をしてしまったことをここに記しておかなければならない。

 

 

来週は小学校の同窓会が予定されているのだが、一波乱起きる気しかしない。

何を隠そう幹事は私なのだ。