Thoughts at 3AM.

記憶の補完

2016/03/21

 
 
 三月。 僕は就活地獄の真っ只中にいる。
 
 今日もゴキブリみたいなスーツにふてくされながら身を包んで、合同説明会に重い足をひきずった。 国際展示場前には同じようなスーツで同じようなストライプのネクタイの男、前髪をデコに貼り付けた化粧っ気のない女たちが東京ビッグサイトに向かって列をなして血に飢えたゾンビのように行軍していた。本当は誰も行きたくないくせに。 そんな行列にまぎれて、僕もゾンビのような顔をして歩く。前日、同居人と、小金持ちのババアは結構な確率で浮気をしているだのなんだのとクソみたいな話題で盛り上がってしまったので、いつにもまして目の下のクマは黒い。
 
 面接では個性を出さなきゃいけないらしい。ソシャゲの初期アバターみたいな格好を強制しておいてどの口が言うかといった話だが、そんな矛盾にも耐えなくてはいけない。もちろんシューカツを辞めればアホらしい慣習からもいちぬけぴーできるのだけど、そんなリスクを取る勇気がないからこんな風に便所の落書きで発散するしかないのだ。あまりにダサく見るに堪えない姿だ。ちょうど一年前、大学の就活支援室にひしめくシューカツ生の群れを見たときに気が狂っていると笑ったが、いまや僕はその列に並ぶようになった。時の流れは世知辛い。
 
 
 会場を出るまでに数社の説明を受けた。どこの説明会に行っても最前列には、キラキラした目で人事を見上げて一挙一動にそれこそ首が取れるほど頷いているヤツがいるもんだ。自分もああなれればよかった。一つのやりたいことに向かって自分を最適化しながら生きる人生、きっと幸せだろうと思う。
 
 いくつもの可能性が輝いてるけど、この体はひとつだけなので否が応でも来年までの間に意中の御社に身を置かなければ、僕のシューカツは世間的に見て失敗になるだろう。世間がなんだ、俺は海外一周の旅に出て好きなことをやるぞ、と言いたいキモチもなきにしもあらずだけど金がないだのなんだのとやらない理由を見つけるのが得意なもので、今日もまた空虚に、きわめて単調に過ごしてしまうのだ。